いまより10歳は若いころ。 明日死んでしまってもかまわない。 そう思ったことがありました。 大海を知らないが故に疑問もなく生涯を全うする、 いま考えるとそれはあの蛙のようでした。 仕事が明け方近くまでかかったその日は町内のゴミの日で、 まだ暗い中、ご近所を気にしながらゴミを持って歩いていました。 白んでくるにはまだ少し早い時間です。 激しい雨がアスファルトを叩いています。 意外と景色が目に映るのは、 雨雲が薄い光を集めては、 辺りをまんべんなく照らしてくれているからでしょうか。 朝の改札へ続く階段で、 何万回と振り下ろされる人々の足のように、 いささか暴力的なまでの勢いで雨は打ち続けています。 色はありません。 墨で描いた世界に入り込んだような、不思議な感覚です。 公園を隔てた家の防風林が、まるで森のようにみえます。 目を奪われました。 モノクロのその森は、 叩きつける雨のすべてを受けとめようとでもするかのように、 めいいっぱいに両手を広げています。 新しい分裂が始まっています。 細胞が活発に動きまわっているのを感じます。 ぼくがそこに見たものは、 優しく、力強い、瑞々しい生命の誕生の瞬間でした。 神聖な、そして神秘の時間に遭遇したようです。 あぁ、生きたいな。 そう思っている自分がいます。 世界は、こちらがこころを開いて初めて、 ぼくらを受け入れてくれるものなのでしょう。 あきらめず、 さめることなく いきましょう。
by nowhere-else
| 2008-07-21 08:18
| いろんなこと
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